精神衛生講座: 第3回「分裂気質」
前回は「強迫性格」についてお話しました。強迫性格は周りの人の評価が気になり、あるいは、周囲の人から嫌われたりすることを避けるあまり、慣れないところでは自己表現が出来ない性格であるというお話をしました。今回の「分裂気質 schizoithymia」は、強迫性格をもっと強くした性格傾向とも言えるでしょう。今までは「・・性格」と書いてきたのに、ここでは「・・気質」と書きました。精神医学の中では、微妙な使い分けがありますが、これを皆さんに説明するのは、紙面の都合で出来ません。「・・気質」というのも「・・性格」というのも似たようなものと考えておいてください。
講談社の「精神医学大辞典」によれば、「分裂気質とは、①非社交的、静か、控えめ、まじめ、②臆病、恥ずかしがり、敏感、神経質、興奮しやすい、③従順、気立てよし、正直、無関心、鈍感、などの特徴がある。①群は一般的な特徴で、周囲の人との接触がうまくいかず、冷ややか、頑固、形式主義というような印象を与える。②群は神経の過敏さのために、興奮しやすいという特性を持っている。③群は鈍感さを示すもので、決断が出来なかったり、服装などに無頓着であったり、感情の表出が少なかったりすることが含まれる。②群と③群は相反するものであるが、両者が共存するところに特徴がある」と書かれています。
この説明も難しいですね。簡単に説明しましょう。人との距離感がうまく取れないことと純粋さが特徴でしょう。分裂気質の人は社交家でなく、自然や読書を好み、真面目で(この真面目さは、くそ真面目で、融通が利かず、頑固とも言えます)大人しい人です。人付き合いは下手で、勉強ばかりしていたりするので、偉い学者になったりしている人が多くいます。「自然愛好家」「学者」タイプの人ということになります。また、この性格の人は自己主張が少なく、自分の意見を言わないため、つき合っていて、その人が何を考えているのかつかめない人という印象を相手に与えます。
もう一つの特徴は、真面目すぎる点でしょう。何でも真面目に受け取るので、冗談が通じないことが多いのです。ふざけて話したら、真面目に怒り出したりする人がいます。裏を返せば、このタイプの性格の人は真面目で、嘘をつくことがなく、この上もなく純粋な人達です。
分裂気質の人の心の内面がどうなっているのか、いろいろな説があり、一定しません。私は今までの経験から次のように仮説を立てています。分裂気質の人は、強迫性格の人以上に他人の評価を気にしています。いや、それどころか、「人というものは信じられない」「人間は恐い」という考えに近い対人恐怖があるように思います。もし、人という存在を信じることが出来なければ、どうなるでしょう。例えば、戦争が始まっていて、その中で生活をしているとしましょう。周りに生活している人が敵か味方か判らない内は、用心して、自分がどちらに属すのか意思表示しないで、周りの人の動きを観察するでしょう。しっかり探って相手が味方であることを確認できたら、初めて自分の本音を話し始めるでしょう。分裂気質の人達は、このような戦場の中に生き続け、しかも、味方である相手になかなか出会えないで苦悩しているように見えます。
ですから、非社交的、静か、控えめで、自然を愛し、勉強してという、マイペースが守れる生活スタイルが一番安定できる生活であるように思います。無人島で動物と一緒に生活できたら、最も幸せかも知れないと空想します。しかし、人間には人恋しい気持が強く、実際には出来ませんね。
学校や仕事など、人の中に入らざるを得ないことになると、人が信じられなくて、人が恐いのですから、人前では、臆病、敏感、神経質、従順という態度をとらざるをえません。ほとんど自己主張もしないし、表情も少ないことが普通です。それでいて、内面では非常に気を使い、人の言動に過敏に反応して、普通なら疲れなくてよいことに疲れ、精神不安定になりやすいことが見られます。
中には、人を疑うことを知らなくて、誰でも信じてしまい、相手との心理的距離が近すぎて、本音を全部話し、その後に気持ちが混乱することがあります。幼子のように、限りなく純粋な人と言えます。心理的距離のとり方が問題となります。
この性格の人の中には、神経過敏とは反対に、人付き合いを持たないことを気にもぜず、何事にも鈍感で、気が利かず、服装などに無頓着であったりする人もあります。何事にも鈍感であれば、人に過敏に気を使うこともなく、気疲れしないでいい訳です。自分を疲れさせない防衛機構とも言えます。しかし、これは実社会で生活して行くためには、「鈍感で気が利かない」ということで、社会不適応を起こす可能性があるという意味で、別の問題が出てきます。先の話とは別に、心理的距離を初めから遠くし過ぎていると言えるでしょう。
また、あまり気を使わないため、思ったことを言える人も居て、しかし距離感が適切でないため、距離を詰めすぎて対人関係がうまくいかないこともあります。
分裂気質は文字通り統合失調症に親和性のある性格です。日常的なごく平凡な対人関係でも疲れてしまい、統合失調症が発病する可能性があるように思います。ただし、どの性格でも同様ですが、分裂気質の人のほんの一部の人が病気になることがあるということであり、大多数の分裂気質の人は病気にならないものです。