精神衛生講座: 第4回「ヒステリー性格」

精神衛生講座: 第4回「ヒステリー性格」

 執着性格、強迫性格、分裂気質を説明してきました。今回はこれらの性格より健康度が高い「ヒステリー性格」についてお話します。
 「ヒステリー」という言葉は、日本でも一般的に知られている言葉です。イライラしている時に感情的になって、言いたいことをぶちまけることを「ヒスを起こす」と言うでしょう?  ヒステリーの「ヒス」は、ギリシャ語で「子宮」を意味し、ヨーロッパの歴史の中ではヒステリーという病気は「性」に関係した、女性に起こる病気、あのヒポクラテスでさえ「体内で子宮が動き回る婦人病」などと説明していた時代がありました。今日、日本で言われる「ヒスを起こす」と似た感じで使われていたのでしょう。
 
 以前、神経症のお話をした時に、ヒステリーは神経症の一種で、病気であることを説明しました。心理的な困難に出会ったとき、身体症状(例えば、検査で異常が認められないのに、目が見えない、耳が聞こえない、全身の痳痺、歩けない、立てない、痙攣、過呼吸、記憶喪失など)を起こす病気です。これは心理的苦境が身体症状に転換されたもので、「転換ヒステリー」とも呼ばれていました。現在は身体表現性疾患と言われています。患者さん本人はこれらの症状は身体病であって、心理的なストレスとは全く無関係と認識していることが特徴です。逆に言いますと、本人は身体の病気と思っていますので、心理的な治療を受けようとせず、治療が進みにくくなります。

 さて、ヒステリーは神経症という病気ですが、ヒステリー性格は病気ではありませんので、区別しましょう。ヒステリー性格はその名の通りヒステリーという病気に親和性がある性格であります。ヒステリー性格の人が、心理的な苦痛のために我慢することが多い状況で、つまり、ヒステリー性格らしさが押え込まれるような状況(我慢の限界)がきた時、ヒステリーという病気(神経症)が起こると考えておきましょう。

 肝心のヒステリー性格の説明が最後になりました。公文堂の精神医学辞典によれば、ヒステリー性格は「虚栄的、顕示的、誇張的、演劇的、自慢的、自己中心的、虚言的、多弁的、お天気屋的、被暗示的、依存的、退行的、コケティッシュ」とまとめられています。これだけ見ますと、なんだかあまりよい性格ではないように見えますが、決してそう悪い性格でもありません。有名な小説「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラは典型的なヒステリー性格として描かれていましたので、そのイメージを思い浮かべてくださってもいいでしょう。
 この性格の人は子供の頃から派手好きで、目立ちたがり屋であることが多い。女の子であれば、洋服、髪型などに関心が高く、おしゃれが好きで、アクセサリーを集めたり、身につけたりすることが好きな子です。学校でも目だつことが好きですから、お芝居なら主役をやりたがるでしょう。同性間でのライバル意識が強いので、負けず嫌いであるのも特徴です。
 自己中心的でナルシストですから、自分や家族の自慢話も多く、お喋りで、気まぐれなところもあるようです。
 もう一つの特徴は色っぽいことでしょう。おしゃれ、派手好きということもあって、どことなく女っぽさが香ってきて、小学生の頃から「何故か男の子が取り巻く」現象が見られたりします。
 依存的で、甘え上手なのも特徴です。人なつこさというか、対人緊張が少ないため、頼りになる相手だと判ると、頼ることには遠慮は少なく、上手に人に甘えることができるようです。
 ヒステリー性格の人は、甘えたり、頼ったり、好きなおしゃれをしたり、言いたいことを言って・・・と考えると、我慢して自分を抑えている強迫性格や分裂気質の人に比べると、随分健康度が高いと言えます。他の性格の人に比べて、対人関係で不安になることが少なく、得な性格とも言えます。裏表がなくてわかりやすい性格でもあります。
 気性はさっぱりしていて、いつまでもウジウジするのが嫌いです。決断するのも早いですね。喧嘩のときは、言いたいことを言うが、後はケロリとしていて、感情を後に引きずることが少ない性格です。「風と共に去りぬ」の最後の場面で、レッド・バトラーがスカーレットの元を去ったとき、スカーレットは泣くだけ泣いて現実を捨て去り、すぐに方向転換して、「タラがあるわ。タラに帰ろう」と言い立ちあがり、新しい方向を目指して動き出す。ここにもヒステリーらしい決断の早さがよく描かれていました。
 この性格の女性は「男にもてる」ことが多いのです。何故かはもう判りますよね。派手で目立つ存在、色っぽさが漂う、その上、男に甘え上手ときますから、「男が放って置けない」タイプの女性ということになりましょう。これは性格ですから、当の女性は無意識で、「何故か男が群がってきて困る」と認識しており、自分が女を臭わせているなどとは自覚はしていないものです。ヒステリー性格の女性に魅惑されて近づいた男性は、付き合ってみると我がままで、依存的で、派手好きで、きっと苦労することも多いでしょう。

 ヒステリー性格は男性にもあります。甘えん坊、我がまま、依存的で、言いたいことを言い、したいことをする男。でも年上の母性本能の強い女性には魅力的な男性のようですね。「私が守ってあげなくては」と思わせる男なのでしょう。誰を好きになっても本人の自由ですが、これもまた付き合うと苦労が多いでしょう。